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打ち出しステンレスのスプーン



ヨーロッパのスプーンの歴史というのは意外と浅く、銘々の前にナイフ・フォークやスプーンが並べられるようになったのは、18世紀に入ってからだそうです。中世の頃は、何人かに1本のナイフやスプーンが取り分け用に使われ、皆は、手食だったのです。中世末頃からだんだん数が増えてくるわけですが、このころのスプーンは金属を節約したため、作りが薄く、柄が細いので、なんだか頼りなくも見えます。けれども、スッと伸びた柄の形と、平べったくてイチジク型のボウル部分とのバランスの美しさには、妙に心引かれるのです。17世紀後半には、ボウル部分が卵型に変わり、柄が幅広く平らになってきます。このことによって重心がボウルと柄の境に集まりますから、ぐんと持ち易くなりました。
昨年から釣り花用金具を作ってもらっている加成さんに、この持ちやすい形になる前の16世紀頃のヨーロッパのスプーンの写真を見てもらったのです。そして今度は、ステンレス製のスプーンを作ってもらいました。普段は、硬く冷たいイメージをともなってしまうステンレスですが、一本一本たたき出して形作られるこのスプーンを見ると、打ったままの質感がなんとも柔らかい味わいなのです。
実は、出来上がったスプーンを見て、「スッカラッ」と呼ばれる韓国の平べったいスプーンに似ていると思ったのです。「スッカラッ」は、ビビンバを混ぜ合わせるにも、炒飯の最後の一粒をすくい取るにもすこぶる都合いいと多くの雑貨人を魅了していると聞きます。そうか!西洋のスプーンは、持ちやすい代わりに持つ場所が限定されるようになったり、肉用・魚用・デザート用といった専用の道具として進化を続けてきたけれど、お箸1本を万能の道具ともする東洋の地では、中世のなごりの形が、そのまま今に引き継がれてきたのですね。
打ち出しステンレスのスプーンは、銀のスプーンと同様、しまい込んだままにしておくと、表面が酸化して黒ずみが強くなります。歯磨き粉をつけた柔らかい布で磨いてやるといくらかきれいになりますが、普段から使っていれば特別に手入れの必要はありません。お客さまにお出ししてもきっと話題になるスプーンだと思いますが、使い込むほど良い肌合いになりますから、ご自分用にがんがん使って下さって大丈夫です。












加成幸男さんの釣り花用金具



ふつうの小さな住まいに似合う釣り花用の道具が欲しい。イメージするのは、和洋を問わず合わせられて、俗な民芸調のようにいかつくなくて、静かですっとした感じ。そんな思いから、鍛鉄工芸家の加成幸男さんにお願いして、花具を作ることになりました。
中世からの伝統を守る西欧の鍛鉄工房では、溶接による接合をいっさいしません。必要なところは穴を作って中をくぐらせて留めたり、帯を巻いたり、リベットや輪を使ってつながれるのです。
花具は日本の古い釣り燈器の形がベースになっていますが、このような西欧のディテールを加わえることで、和花とも洋花とも折り合う道具が出来上がりました。少々高価な花具と言えますが、鉄工所のプレス機械による成形品とは違う、鉄の繊細なニュアンスを感じていただくことができる一生モノになったと思います。



鉄をコークス炉で熱します。 金具Eの皿に腕を
リベット留めしま
す。「こんな小さ
なリベットなんて
初めてですよ!」
リングに腕部分を
「帯巻き」で取り
付けたところ。
腕は、熱しながら
1回づつねじりま
す。「万力で挟ん
で一度に回したり
したら、ねじりの
幅がばらばらになっ
てしまうからね。」
最後の仕上げは、
蜜鑞(蜜蜂の巣
を過熱・圧搾し
てつくるロウ。)
を熱で溶かしなが
ら掛けていきます。
作業に使うこの台を「金床(かなとこ)」と言います。元鍛冶屋さんから
分けてもらった貴重なもの。新しいも
のには、形も素材もこんなに良いもの
がないのだそうです。金具Fの二股に
分かれる腕部分は、タガネで割ります。機械で切ると、歯の厚み分の溝ができ
てしまうからです。
PROFILE

◯かなりゆきお。鍛鉄工芸家。
1969年 埼玉県生まれ。
2000年 西田光男氏主宰の鍛鉄工房
PAGE ONEより独立。
ヨーロッパ中世からの鍛造の技術と
美意識を忠実に追求する作品で人気。